ご家庭用の思い入れのある夫婦椀の片方を誤って落として欠けてしまったお椀。
まだとてもきれいな汁椀でした。お客様の希望は限りなく元通りになること。
欠けた部分も捨てないでとっておいてくださったおかげで接着して形は元通りになります。それが木製の良いところですね。ただ欠けたところだけの修理であれば、そこだけ直しましたという感じで直した部分だけどうしても目立ってしまいます。それでは限りなく元通りというわけにはいきません。
元通りにするためには、いちど全体を塗りなおして、同じ蒔絵をつけなければいけません。同じ蒔絵をつけるために、夫婦椀の割れていない方をお借りして、蒔絵師さんに描いてもらいました。蒔絵師さんの気がかりは、線が細い部分が同じような細さで描けるかどうか・・・なぜなら、現在はここまでの細い線を描ける筆がないということでした。「まあ、でもなんとかやってみる・・・」と言ってはくれましたが、念のためお客様に、ここまでの細い線は描けないかもしれないと伝えたうえでの作業でした。
お預かりして約2ヶ月後、見事に蘇りました。
欠けた部分がどこなのかも全く分からず、線の細さも全く心配しなくてもいいくらい完璧で、手にしたときは私自身感動モノでした。
お客様に送った翌日、早速嬉しいお礼のメールが届きました。一部紹介させていただきます。
大石様
先ほど、お椀が届きました。
心底驚きました!!すっかり元通りです!
絵筆云々と伺っていたので、多少の違いは覚悟していました。むしろ自分の不注意の教訓として記念になるかも、と思っていました。
けれども、開封して本当に驚きました。参考としてお送りした夫のお椀と全く同じ柄、割れた部分の継ぎ目もどこにも見当たらず、完全復活です!
伝統工芸の底力を再認識しました。手間暇かけて直して使う良さをしみじみ味わっています。
<一部省略>
修理に携わってくださった職人さんがたにどうぞよろしくお伝えください。
<以下省略>
このようなメールをいただけたのも、越前漆器の職人さんたちのおかげ。私はただ、お手伝いをさせていただいただけですが、ものすごく温かい気持ちでいっぱいです。たった一つのお椀の修理ですが、文句を言うどころか、丁寧に直してくれる職人さんたちには感謝の言葉しかありません。
一見地味なことですが、お客様に越前漆器の良さをわかってもらえたことが何より嬉しかったです。
愛着ある漆器を修理して永く使おうと思ってくださる方のために、これからも私のできる精一杯で応えていきたいと思います。
【追記】
漆器修理サイトに、こちらの修理例を掲載いたしました。
⇒ 欠けた蒔絵入りお椀の修理例
越前漆器の職人さんはたいしたもんだ!って思っていただけたらポチっとお願いします。
毎日の更新の励みになりますので、みなさんの1票をよろしくお願いいたします。